思い想いに
デート中につむぎが言った言葉が始まりだった。
「何か調子狂うんだけど…」
唐突に狂うと言われて頭に疑問符が浮かぶ。
怪訝そうな顔で私を見るつむぎに何か間違えてしまったのだろうかと焦る。
「どうかした?」
「……」
聞き返すと無言のままのつむぎに私は話を始めるまで待つ。
「俺ばっかりに振り回されてるみたいじゃん…」
「えっ…」
予想外の言葉に驚く。
「あー上手く言えないけど…の事が気になって仕方がないんだよ」
「ふーん、たまには振り回されてみるのも良いんじゃない?これでつむぎにも少しは恋する女の子の気持ちが分かったでしょ?」
「あんたムカつく」
「つむぎには言われたくないよ」
大人だから全てを理解し受け止められるなんてない。
本当は、私だってつむぎに振り回されているのだと言ったら喜びそうだから言わないけど。
こんなにも誰かを好きになるなんて思ってもみなかったから…。
「ほら、つむぎも一緒に行くよ」
「ガキ扱いされるみたいで嫌なんだけど…」
少し拗ねた顔の彼に手を伸ばすと直ぐに私の手を取り握り返される。
私からも手を強く握り返した。
隣を歩くつむぎに目を向けると自然に歩く早さも私に合わせてくれる。
出会って初めの頃はそんな気遣いなんて殆どなかったのに、と付き合う前の事を思い出す。
「ふふっ」
「急になに笑ってんの?きもちわるい」
少し冷たく感じる言い方も本音じゃないし、照れているだけだって分かるから敢えて言い返さずに笑いかける。
些細な事でも彼なりの優しさだと気づいてからは嬉しくなっていた。
つむぎには子供みたいや可愛いなんて言うと機嫌が悪くなるから言えないけどそう思ってしまう。
「つむぎ君、大好き」
繋いだ手を引き寄せると腕を絡めて寄り添う。
「わっ、今度はなんなの?それに、につむぎ君って言われると変な感じがする…」
「今度は私から素直な気持ちを伝えたんだよ。たまには高校生みたいに可愛らしく言葉にして伝えないとね」
自分でもらしくないって自覚しているけど、年相応の対応が出来そうになかった。
普段は歳の差は気にしていない様にしているだけで恋人が高校生だって所を目にすると実感させられる。
どうしてもこれだけは仕方がないからって言い聞かせても恋人に見られているのか気にしている自分がいた。
「じゃあ、学生らしく制服を着てつむぎ君が好きですって言ってよ」
悪戯を思いついた子供の様に意地の悪い顔でそう言う。
「それだとコスプレになるから!…もしかして、そういう趣味なの?というか、この歳だともう制服は着られないかな…」
「はぁ?俺の趣味じゃねーし!冗談だろ。そうしたら少しはらしくなるかもって思っただけだし。いや、ならギリ大丈夫なんじゃねー?案外、似合ってたりしてな」
笑って言うから真に受けてしまいそうになる。
「それもそれで複雑なんだけど」
「まあ、その…あんまり気にすんなよ。あんたはあんたのままで良いんだからさ」
「ありがとう。うん、そうだよね」
私は私のままで良いと言うつむぎがくれた言葉を忘れない様に心に留めさせる。
言わなくても思いが伝わっていると知り、私にはそれだけで十分すぎるぐらいだった。
2015.4.12 世莉企画TOPへ戻る